実は、素直に感心してしまったことがある。一つ一つのお話、アドベンチャーゲームの根幹であるシナリオ、そのものだ。

 学園生活というのはイベントも多く、話を作りやすい。そもそも学園ドラマはマンガやアニメ、ラノベ、同じエロゲにも大量に出回っていて、こういうのをパク……インスパイアしたものならば、簡単に作ることが出来てしまう。10分程度の短いものならなおさらだ。

 このゲームのシナリオにはそういう安易さは感じなかった。どのエピソードも「何を見せるか」を「何に驚かせるか」が明確。そのテーマは安易な模倣ではない。たとえて言うのは難しいのだけど、無理に言うとブログやツイッターなどのおもしろさに近い、というところだろうか。

 ブログの書き手は特にすごい経験をしているわけではない。今日あったちょっとおもしろかった出来事をその日のうちに書き留める。リアルな実感が伝わることがまず大切だ。そしてその中でちょっとひねりを加えたり、作り手の個性を伝えたりしようとする。
 おそらくこのゲームのライターは、既存の学園ものから影響を受けたのではなく、自分の生活の中から感じたこと、思っていたことをベースにお話を作っていったのだと思う。うまくオチをつけるとか、萌え萌えな話にしようとか、そういう意図ではなく、自分の体験を大切にしよう、この感覚をそのままお話にして作ろうとしているのではないだろうか。

 一つ喋ってしまおう。
 降雪機という、人工的に雪を降らせる機械がある。スキーのゲレンデを作ったり映画の撮影に使ったり、というおおがかりな機械だ。
 これは未来の技術でもなく、ドラえもんのふしぎ道具でもなく、普通に使われているものだ。ただもちろん大きな企業だったりお金持ちであったり、そういう特別な環境にいないと普通の高校生にはほとんど関係ない、触ることもできないようなシロモノだろう。
 このゲームのあるエピソードでは、この降雪機が重要な働きをする。主人公たちの目を通したこの機械は、驚きに満ちたアンビリーバブルな、センスオブワンダーなアイテムだ。これが実に鮮やかに、シナリオの中で使われる。
 非現実的なものを、一度現実に引き戻してキャラクターの目線でとらえ直す。このゲームのエピソードはそういう地道な発想によって作られている。

 だらっとした長い文章ではなく、短い台詞でシーンを切り替える意図が徹底されている、と感じた。そのおかげで展開に飽きを感じさせない。少々胃にもたれるような重たい話だったり、逆に力を込めて盛り上げたいというようなところも、くどくどした説明をせず、場面を切り替えてしまう。さらっと乾いた印象、これが品の良い余韻を与える、と言ってもいいかもしれない。

●ストーリーかエロか?エロゲの究極の選択

 エロゲにはシナリオ重視のものと実用重視のものが存在する。
 細やかな心の動きに共感したり、あるいは予想外の展開にため息ついたり……そういうこととエロ要素は、共存しないのかもしれない。感情移入しすぎたお話に、エロシーンに興奮できない……そんな経験は多くの人があるのではないだろうか。泣いたり笑ったりという楽しさには、エロ要素は邪魔なのだ。

 このゲームは抜き派もシナリオ派もどちらも引き受けるため、一工夫がしてある。
 ゲームを始めると「ラブラブモード」という選択肢が最初に出てくる。これは直球のエロモード、ガンガン抜きを楽しむモードで、これはゲームをインストールした直後から選ぶことが出来るのだが、実はシナリオ中のエロシーンの抜粋だ。女の子と知り合ってゆっくり仲良くなってそしてエッチな関係に……そういうのをすっ飛ばして、最初からこれを選んでもいい。これはかなり思い切った決断ではないだろうか。

 普通にゲームを始めても、「エロ」と「ストーリー」ははっきりと区別されている。
 このゲームは高校2年になった春からスタートする。そこから始まって、主人公が卒業するまでの2年間を過ごしてエンディングとなる。
 実は最初の1年はエロはほぼ無い。泣きあり笑いありドラマあり、少年雑誌にもそのまま使える話ばかりで構成されている。
 3年生になってからの1年、ここから急転してエロい世界に入っていく。選ばれたヒロインによってはシナリオらしきものはない場合もある。ひたすらエロスエロスエロス……エロシーンの連続で卒業のエンディングを迎える。一気に通すのはちょっとしんどいくらいのエロが詰まっていた。

 どのヒロインもすべてイチャイチャのラブラブ。寝取られとかハード陵辱とか、そういう傾向はない。ストーリーではこのラブラブになるまでの過程がじっくり書かれているのだが、どうせヒロインとはラブくなるのだから、先に見ても後から見ても内容は変わらない。先に「ラブラブモード」でエロを楽しんだ後、シナリオを楽しむ、こういう「使い分け」ができるのだ。
 ユーザーにとっては変にこだわりを持たれるよりも、単純に便利でうれしいのではないだろうか。

●ぬるぬるに動く立ち絵と、レベルの高い一枚絵

 やはりエロゲといえばイラスト。
 このゲームの彼女らはデフォーメーションムービーのCG技術が使われていて、これはぬるぬるという表現がいちばんぴったり当てはまる。これはもう、OPやデモムービーなどを見るのが一番早いと思われる。
 最近の技術にあまり触れていなかったこともあって、個人的には二次元に描かれた女の子が動く様子は衝撃的体験。動くことによってリアリティが全然変わってくる感じだ。これはちょっとすごいよ。

 シナリオは立ち絵が中心で進むため、一枚絵はほぼすべてエロシーンというサービス設計だ。
 どちらかと言えば繊細なタッチで、少女マンガ的な淡い、線が細い感じだが、どの女の子もおしりとおっぱいは十分。これは最近の流行だろうか、個人的には豊満でよろしい。どれも表情がきちんと書かれていて動きが想像しやすい、抜き派が満足しやすいデキだろう。
 異次元になってしまっている、ありえないようなスタイルの女の子はおらず、高いレベルで安定している。

<レビューについて  1 / 2 / 3 / 4  キャラクターについて>



とにかくお手軽に、というサービス精神はこのめまぐるしい社会にピッタリ。お手軽ではあるが、内容はきっちり詰まっていて独特の世界観を作っている。あっさり笑いたい、みたいなノリで始めた人には少々きついかも。
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